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金沢文庫のマンション

仕切らない暮らしが、家族を近づける。
マンションの家づくりは、どうしても「部屋数」から考えがちです。
3LDKか、2LDKか。何帖か。どこに個室をつくるか。
けれど藤原酒谷設計事務所の酒谷(サケタニ)氏と藤原(フジワラ)氏は、そんな定番の入口を、あっさりと抜けていきました。
「個室というものにとらわれずに、動線の中に、食べる / 寝る / 働くが散りばめられるほうが自分たちに合っている」。
たどり着いた答えは、築25年の中古マンションを“1R”にするという潔い選択でした。

専有面積は約67㎡。
最初に思ったのは、「思っていたより少し小さいな」ということだったそうです。
だからこそ、次に考えたのは「どうすれば最大限、空間がひとまとまりに広がって感じられるか」。
そこで最初の一手として、仕切りを外し、家全体をひとつながりにしてしまうことを決めました。


ただし、“ひとつながり”は、ただ広いだけの空間とは違います。
彼らがつくるのは、行き止まりのない、ドーナツ型の回遊動線。
玄関から入って、LDKを抜け、洗面や脱衣を通り寝室へ。
そこからまた玄関に戻ってくる。
家の中をぐるりと巡れることで、生活の動きが自然に整い、空間も伸びやかに感じられます。
玄関に“アイストップ”を置く。家に奥行きが生まれる理由

玄関を開けると、すぐ目の前に大きな壁。
ここが視線を受け止め、動線を二つに分けます。
あえて一度、空間を“絞る”。
その先に、植物やデスク、そしてリビングやキッチンが少しだけ垣間見える。

この「ちらり」があるから、歩き出したくなる。
進んだ先のLDKが、ぐっと広く感じられる。
住まいの中に、静かなドラマが仕込まれています。
廊下を“部屋”にする。幅2m弱という余白

この家で印象的なのが、廊下の幅。約2m弱あります。
一般的なマンションが90cm前後だとすれば、倍以上。
廊下なのに、どこか部屋のようで、部屋なのに、どこか外のようでもある。
植物が並び、デスクが置かれ、立ち止まれる。
“通るだけの面積”が、“過ごせる面積”に変わると、住まいの価値観そのものが変わっていきます。

玄関から寝室までの床は、すべて同じタイルで統一。
しかも、屋内外の両方で使えるタイプです。
廊下にも連続することで、室内にいながら少し“外の感覚”が混ります。
そして同時に、床材を一種類に揃えることで施工の複雑さが減り、コストも抑えられる。
美意識と合理性が同じ方向を向いています。
11帖の植物ストリート。マンションに“土と風”を持ち込む

この住まいには、植物を愉しむための場所があります。
廊下の多目的スペース、名付けて植物ストリート。
約11帖のボリュームを確保し、大きなグリーンも置けるように計画しました。
葉が落ちる季節も、剪定の時間も、暮らしの一部。
植物があるだけで、家の中に「季節」が生まれる。
マンションという人工的な箱の中に、柔らかな自然のリズムが差し込んでいます。

ここには奥のキッチンまで連続するほど長い造作棚。
玄関側は飾り棚になり、途中は本棚になり、キッチンまで来ると食器棚になる。
役割を変えながら、家を一本の線でつないでいく。
棚が“背骨”になって、家の中の景色を整えてくれます。
LDKは“端にキッチン”。外を眺めながら、暮らしと仕事が混ざり合う

LDKに入ると、キッチンは部屋の端に。
手前にダイニングテーブルを置き、座った先に外が見えるように構成されています。
料理をしながら、もう一人はダイニングで事務作業。
打ち合わせをしながら、その横で息子さんが遊ぶ。
「仕事と暮らしを切り分けない」。
そのスタイルが、このLDKでは自然に成立しています。
キッチンには「KITCHEN KIT (キッチン キット)」を採用し、表に見える面材や金物は自分たちでセレクト。
好きなものを選び、でも機能はシステムキッチンの確かさを担保する。
デザインと実用を“両立できる範囲”に美しく収める選択です。

リビングにあるデイベッドは、大工さんに作ってもらった“台”。
その下には大容量収納が仕込まれ、息子さんのおもちゃが丸ごと収まっています。
雑多なものが視界から消えるだけで、空間の透明度は驚くほど上がる。
「置き型の自由さ」と「造作の機能性」。両方の良いところを取りにいっています。

LDKの壁には珪藻土。
吸湿や防臭といった機能もありますが、ここで注目したいのは“光”。
左官材の凹凸が、時間帯でしっとり見えたり、きらきら見えたりする。
その変化が好きで採用したと語られています。
一方で、費用を抑えられる珪藻土塗料はのっぺりしがち。
そこで「リブ(突起)」を設け、面を細かく区切って表情をつくる。
素材のグレードではなく、「どう見せるか」で価値を上げる。
建築家らしい判断です。

洗面台は、リビングダイニングのすぐ隣に。
手を洗いたい、水がほしい、という行為が2ステップで完結する距離にあります。
しかもタイルは、自分たちで貼れるものを選び、施工費を抑えながら「ここは手をかけたい」という気持ちも叶える。
DIYの分量がちょうどいいのも、暮らしが続く秘訣です。


寝室は天井を下げる。小さくすることで、よく眠れる

寝室(約8帖)は、天井を張って高さを少し下げています。
設備の都合もありますが、それ以上に「寝室は大きすぎると落ち着かない」という感覚を、設計で素直に形にしました。
クローゼットはカーテンだけで簡素に。
キャンプ道具など大きな荷物も柔軟に収まり、端から端まで約4mの収納量。
“豪華にしない”ことで、むしろ生活の自由度が上がる。そんな住まい方です。
家づくりは、部屋数ではなく「距離感」から始めると愉しくなる

藤原氏と酒谷氏は、リノベーションを通して気づいたと言います。
「部屋数や広さの重要度は、自分たちにとって低かった」。
仕切りがなくても、場所があり、他との距離感がきちんと設定されていれば、暮らしは成立する。
むしろ、そこから家づくりを始めると、とても愉しくなる。
“区切る”ことで整えるのではなく、“つなぐ”ことで整える。
部屋という概念を軽くして、居場所という概念を増やす。
もし、これから家づくりを始めるなら、ぜひ一度、自分たちの暮らしを「何LDKか」ではなく、どんな距離感で過ごしたいかから考えてみてください。
住まいは、もっと自由に、もっと心地よくなります。
藤原酒谷設計事務所がこの家にかけた想い
それは、個室という概念にとらわれず、大きな流れの中に暮らしを散りばめるデザイン。
家中をくるくると回遊できる「ドーナツ型」の間取りや、玄関からキッチンまでを繋ぐ長い棚。
そして、11帖もの広さを持つ「植物ストリート」など、建築家の夫妻ならではの自由な発想が詰まった住まいです。
■住まいの詳細情報
・建物 金沢文庫のマンション
・場所 神奈川県横浜市
・専有面積 67.4㎡ (20.38坪)
・間取り 1R
・家族想定 家族3人暮らし
・会社 合同会社藤原酒谷設計事務所
CLASTORiÉ公式YouTubeのルームツアー
今回は、藤原酒谷設計事務所が手がけるマンションリノベーションをご紹介します。
住まい手は、同社の共同主宰を務める藤原氏と酒谷氏の夫妻。
「個室」という概念にとらわれい開放的な間取りです。
家中が繋がる「ドーナツ型」の回遊動線や、11帖もの広さを持つ「植物ストリート」など、建築家の自邸だからこそ実現した自由な発想を存分に語っていただきました。
掲載企業・ブランド紹介
合同会社藤原酒谷設計事務所
公式HPはこちら
https://www.fu-sa.com/









