2022.05.26.thu

持続可能な素材が持続可能な価値観をつくる

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ボタニカルハウスとは何か?

ボタニカルハウスとは何か?

「自然素材の家」というキーワードは、いまや日本の家ではトレンドを越えてスタンダードになっている。

近年では持続可能な素材で作られているかどうか (サステナビリティ) が世界的な関心となり、大手カフェチェーンでプラスチックのストローが廃止されるなど、多くの注目を集めていることもあり、漠然と自然素材で家を建てたいと考える人も多いはずだ。

しかし、見えない部分についてはどうだろうか? 家の中の見えない部分の素材が何かとか、さらに自然素材かどうかなんて、分からない人が多いのではないだろうか。

例えば外壁を分解すると、まず外には外壁材があって、これに色々な種類があることは周りの家を見てもよく分かる。

だが、中に入っている断熱材が何で、自然素材かどうかなんてことは気にしたことがない。代表格であるグラスウールやウレタンは自然素材ではない、では自然素材の家とはいったいどんな家を指すのか。

愛知県を中心に東海3県で展開されているボタニカルハウスは、壁の中の断熱材まで自然素材でつくられている。

しかも、壁そのものまでが自然素材であり、さらにすべてが自然素材であることで、暮らしにストレスがなく質が高まり、そして家の価値も下がりにくくなると言われたら、自然素材にこだわりたい人じゃなくても気になるはずだ。

ボタニカルハウスを展開する環境住宅研究所の友松正護 (トモマツショウゴ) 氏と、間取り (プラン) やデザインを手がけた岡村紀子 (オカムラノリコ) 氏の二人に、その魅力と想いを聞いた。

断熱材まで自然素材の家

断熱材まで自然素材の家

■早速ですが、ボタニカルハウスとはなんでしょうか?

− 友松氏コメント:木の断熱材を標準仕様にした規格住宅です。

100%自然素材なので、ボタニカルハウスと命名しました。断熱材まで自然素材にこだわった規格住宅は、ほかにはないと思います。

友松正護氏と岡本紀子氏
友松正護 (トモマツショウゴ) 氏と岡村紀子 (オカムラノリコ) 氏

■木の断熱材っていいんですか?

− 友松氏コメント:100%自然由来の素材なので、化学物質が含まれていないことによる安心感がありますし、木から作られて自然に還るのでエコでもあります。

現在、日本全国の家で使われている断熱材の9割以上が、石油系の化学物質で製造されています。

発泡スチロールで作られていたり、皆さんも聞いたことがあるかもしれないですが、断熱材で最も一般的なグラスウールもプラスチックなので、化学製品ですよね。

ボタニカルハウスで使われる木の断熱材
ボタニカルハウスで使われる木の断熱材

■100%自然素材だと何がいいんでしょうか?

− 友松氏コメント:家を構成する住宅の体積を100とすると、実は断熱材がその70%を占めているんです。つまり断熱材が化学物質であれば、化学物質に包まれて暮らしていることになります。

もちろんすべての化学物質が悪いわけではありませんし、日本の住宅で使われているほぼすべての断熱材が安全性を認められています。

しかしながら持続可能な素材という視点では、化学物質を用いた断熱材と比べて、木の断熱材で家をつくることは非常に多くのメリットを生むんです。

■持続可能な視点ですか?

− 友松氏コメント:はい。これを説明するには私たちがボタニカルハウスで使っている木の断熱材は、実は壁でもあるということを説明しなければいけません。

■木の断熱材が壁?

− 友松氏コメント:実はボタニカルハウスは、外壁がそのまま木の断熱材でできているんです。

どういうことか、すぐにはイメージできないと思うのですが、木の繊維を固めてボード状にすることで、そのまま断熱材として、そして外壁として使用できる。つまり、断熱性をもった壁材と言うことができるんです。

これを私たちは「ECOボード」と呼んでいるのですが、本当にすごいことなんですよ。

木の断熱材で作られた「ECOボード」
木の断熱材で作られた「ECOボード」

− 友松氏コメント:まだ断熱材にあまり馴染みがない方には、私たちの興奮が分かっていただけないかもしれないですが、なぜなら木の断熱材で壁そのものがつくられていることで、ボタニカルハウスが持続可能な家であることにつながってくるからなんです。

もっと分かりやすく言い換えると、「家が劣化しない」「性能が落ちない」つまり「価値が変わらない」という分かりやすいメリットにもつながってきます。

呼吸する家が生み出す価値

呼吸する家が生み出す価値

■なぜ木の断熱材で外壁が出来ていること、つまりECOボードでできていることが価値の変わらない家につながるのですか?

− 友松氏コメント:ECOボードで外壁が出来ていることが意味するのは、簡単に言うと「呼吸する家」になっているということなんです。

普通の家は外壁にサイディング (外壁材のことで、主に金属系や窯業系の外壁材を指す) や、樹脂系のプラスチック素材でできた材料が張ってあります。外から順に説明すると、サイディング、透湿防水シート、合板、そして断熱材があって、それを防湿シートで覆い、石膏ボードがあって、ビニールクロスといったイメージです。

今挙げた中で、防湿シートというものが出てきましたよね。これが問題なんです。

■シートですか?

− 友松氏コメント:ちょっと説明が複雑になるので簡潔にお伝えしますが、この防湿シートは湿気を壁の中に入れないために貼られています。

壁の中には断熱材がありますね。断熱材に湿気が溜まると、これがカビの原因になるので、シートで侵入するのを防いでいるんです。

ここに課題があって、このシートは家が完成したときには機能しているんですよ。

ですが、このシートをしっかりと貼るために何百か所もビスを打って止めています (編注:シートは壁の中の柱に打たれている) 。

日本では日々細かい地震が起きています。そのためビスで打たれた穴が少しずつずれ、そこから湿気がわずかに入ってきてしまうんです。

■湿気が壁の中に入ってくるのが問題なんですね?

− 友松氏コメント:今度は逆にシートがあるからこそ、入ってきた湿気を逃げすことが出来ず滞留してしまう。するとカビが発生して断熱性を劣化させます。もちろん室内の空気の質も悪くなりますね。

人間に置き換えると、運動するときにキッチリと上下にウインドブレーカーを着ているようなもので、汗が逃げないですよね。ジメジメしてすごく不快になる。これと同じような状態が起きる可能性があるんですが、人間と違って壁は洋服を脱ぐことができません。

誤解してほしくないのは、すべての家がそうなっていると言いたいわけではありません。施工の質にも左右されます。そういったリスクがあるということです。きちんと技術の高い職人さんが施工すれば、カビが生えてしまうことはないんです。

■ボタニカルハウスの場合はどうなるのですか?

− 友松氏コメント:説明が長くなりましたが、これがECOボードを使ったボタニカルハウスの場合どうなっているか。

木の断熱材がそのまま外壁になっているので、湿気は遮られることなく内へ外へと移動することができます。まさに呼吸する壁という役割を果たします。

ボタニカルハウスの場合、正確に言うと内からECOボード、木の断熱材、ECOボードという壁の作り方になっていて、最も外側は金属サイディングの代わりにモルタルや木製の外壁材で仕上げをするのですが、どちらも透湿性のある素材です。そのため過剰な水蒸気を室内で発生させる実験でも、壁を越えて湿気が出ていくことが証明できています。

そのため壁の中、断熱材の中に湿気が滞留することがなく、カビを発生させることがありません。

ECOボード(木の断熱材)がそのまま壁になっている
ECOボード (木の断熱材) がそのまま壁になっている
ECOボードが壁を越えて湿気を外へ逃がす
ECOボードが壁を越えて湿気を外へ逃がす

■それが劣化しない理由になるんですね

− 友松氏コメント:カビが発生しないので断熱材が劣化せず、性能も保たれます。

さらに外壁に何か問題が起こったとしても、その部分だけを切り取って新しい断熱材をはめてモルタルを塗りなおせば、また同じ状態になります。

こういったメンテナンス性の高さも含めて、価値が落ちない家と呼べると考えています。

木の断熱材が暮らしの質を高める

木の断熱材が暮らしの質を高める

■呼吸する壁と聞くと、湿気は保たれるけども涼しかったりしないのですか?

− 友松氏コメント:それはまったく間違っていて、断熱性能も非常に高いレベルです。

なぜなら断熱材で作られた壁ですから、断熱材自体も非常に厚みがあることになります。外の温度を室内に侵入するのを防ぐんです。

夏は暑さの侵入を夕方まで防ぎ、冬は逆に夜になってから熱が出て行くのを防ぎます。湿度と同様、一定の温度に室内を保つことに貢献するんです。光熱費も下がります。

木の断熱材が夏の暑さや冬の寒さの侵入を防ぐ
木の断熱材が夏の暑さや冬の寒さの侵入を防ぐ

■ほかにもボタニカルハウスの特徴はありますか?

− 岡村氏コメント:生活する中でのストレスが少ないことですね。

家全体が断熱材に覆われていることで、家の中での寒暖差がなくなり快適に過ごせます。

さらに呼吸する壁であることで、家全体が調湿効果をもっているように機能するんです。温度だけでなく、湿度まで一定に保たれます。

地域にもよりますが、おおよそ45~50%の湿度を保つことが出来るので、じめじめする感じも無いですし、乾燥肌の人にとっても過ごしやすいです。暮らしの中でのちょうどいい湿度だと思います。

壁を越えて湿度が出て行き、湿度が一定に保たれる
壁を越えて湿度が出て行き、湿度が一定に保たれる

■温度だけでなく、湿度も一定に保たれると。

− 岡村氏コメント:空気の質が高いことを感じてもらえると思います。

それに遮音性もとても高いんです。道路の傍にボタニカルハウスが建っていたとして、隣をトラックが通ったとしても、室内は40db程度に保たれます。これは図書館並みの静かさです。

実際には、そのような部分が一番、住むひとの気持ちと暮らしの質を高めてくれるのではないでしょうか。

■デザインの部分ではいかがですか。

− 岡村氏コメント:ボタニカルハウスには平屋から二階建てまで、いくつかプランがあるのですが、基本的にはシンプルにデザインしています。

テーマとしては、料理に例えると木の断熱材とECOボードという最高の素材があるからこそ、シンプルな調理が生きるといったイメージをしました。

ですが、「何もない」を意味するシンプルさではありません。

いかにシンプルにするかという観点でまとめながらも、研ぎ澄まされたシンプルではなく、やり過ぎず、ずっと愛着を持っていられるようなデザイン性を意識しました。

シンプルさの中に窓の配置などがアクセントとなることで、普通であって普通でない家というのが伝わるようなポイントを随所に取り入れていますね。

基本プランでは外観をグレーにしたのも、そんな理由からで、街中でも郊外でもなじむようなデザインになっています。

グレーがベースになっている外観
グレーがベースになっている外観
窓をアクセントとしたシンプル過ぎないデザイン
窓をアクセントとしたシンプル過ぎないデザイン

■素材からデザインを発想しているのが面白いですね

− 岡村氏コメント:シンプルさはストレスのない導線という間取りの発想にもつながっていて、家の中はシンプルにストレスがない状態がベストだと考えているんです。

例えば、3畳ほどの洗面脱衣所を確保しています。私は洗面周りがキッチンの次に用事が多い場所だと考えていて、広く確保することで夫婦そろっても一緒に朝から身支度ができたり、洗濯物をそのまま部屋干しすることも可能になっています。

性能が高いことだけでなく、間取りの部分でも日々の生活で小さなストレスを感じてほしくないという想いで設計しました。

ストレスのない導線を意識した間取り
ストレスのない導線を意識した間取り
基本的にどのプランでも導線がシンプルにデザインされている
基本的にどのプランでも導線がシンプルにデザインされている
部屋干しなど様々なニーズを想定した広めの洗面脱衣所
部屋干しなど様々なニーズを想定した広めの洗面脱衣所
「キッチンの次に用事が多い場所」と位置づけている
「キッチンの次に用事が多い場所」と位置づけている

ボタニカルハウスが変えたい価値観

ボタニカルハウスが変えたい価値観

■ボタニカルハウスがこれから目指したいことは何でしょうか

− 友松氏コメント:まずは持続可能な素材で家をつくれることを広く伝えていきたいです。

自然素材の断熱材があるということを伝える以前に、まだまだ断熱材そのものに対しての関心が少ないと感じます。

環境先進国であるドイツでは、日本と違って最も木の断熱材の採用率が高いんです。ドイツでは劣化する材料を使ってはならないと建築基準法で定められていること、それ以上に持続可能な素材で作ることの目的や価値が、一般の人にまで広く認知されているからだと思います。

■そのためには何が必要でしょうか?

− 友松氏コメント:メリットがあることを同時に伝えていくことではないでしょうか。

木の断熱材で作られた家は性能が落ちにくく、一般的な日本の家ではできないメンテナンス性もあるので、自分たちの子供や孫が大きくなっても住み続けることが出来る。将来的に増築をしたいと思った時にも、壁の構造がシンプルなので、間取りをリフォームするのも簡単です。

持続可能な素材を使えば、家が自分たちの価値ある資産として残ります。

価値が変わらない家を増やすことで、そんな価値観が広まっていってほしいと思います。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

価値が下がる家は普通ではなくなってくる

価値が下がる家は普通ではなくなってくる

SDGsという言葉を盛んに聞くようになった。環境問題や人の健康に配慮した持続可能な開発目標という意味だが、これまではその視点が全然なかったんだろうなと思うのが住宅の世界だ。古い家が邪魔もののように放置されていて、だいたいまるっと全部壊されて新しい家が建つ。

もちろんそれは住宅だけの話ではないが、世界的に見ても日本の戸建て住宅は劣化が早いと言われていて、その背景として、30年で戸建ては価値がゼロになるというような不動産的な考え方も影響を及ぼしていることは間違いない。

だが、持続可能な素材で作られた家は、劣化しにくいことが分かってしまった。戸建ては建てた瞬間から価値が下がっていくという考え方は、今後は当たり前ではなくなってくるかもしれない。

壁まで自然素材の断熱材で家をつくったら、性能的にも高くて湿度も一定に保たれてストレスが減り、エコで暮らしの質が上がるというのは、なんとも素敵な話だ。私たちにメリットしかないし、まさにSDGs。

持続可能な素材だけだから性能が劣化せず、家族で長く住み継いでいけるし、賃貸にすることになっても、それはプラスに働くだろう。デザインや間取りに反映されたシンプルさには、そんな観点もあるのだと思う。

戸建て住宅の不動産的な価値観まで変えてしまうくらいに、普通の選択肢になってほしい。

BOTANICAL HAUSの住まいをYouTubeで紹介しています
掲載企業・ブランド紹介

ボタニカルハウス

自然素材である木の断熱材を中心に設計された規格住宅 (プランが決まっている住宅)。外壁まで断熱材でつくる高い断熱性とシンプルなデザインが特徴で、平屋や2階建てなど全19タイプのプランを用意している。環境住宅研究所を含む東海3県の工務店19社で建てられる (2022年4月現在)。

公式ホームページはこちら 
https://botanicalhaus.jp/


環境住宅研究所 (カンキョウ ジュウタク ケンキュウジョ)

愛知県の住宅会社。省エネだけでなく長寿命な家を目指し「22世紀までのこる家」をコンセプトに掲げて家づくりを行っており、ECOボードという木の断熱材を使った注文住宅を手掛ける。ボタニカルハウスの設計も担当。

公式ホームページはこちら 
https://ecohaus.jp/human/

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